前と後

珈琲店の扉を開けて席について注文をする。いままで普通にしていた行動が久々で懐かしさすら感じながら、注文したアイスコーヒーを一口飲んでホッと天井を見上げる。イタリアンブレンドを急速に氷で冷やしたアイスコーヒーは、味に芯があって冷たさも相まって、口の中をシュッとさせてくれる。

ペンを片手に手帖を開いていると、いつも通りの日常が戻りつつあると感じる。

新型コロナウィルスが社会に大きく打撃を与え始めたのは2020年2、3月頃、そして落ち着き始めたのが6月。無駄な外出は控えるように言われると外へ出たくなってしまうのが本音だった。自分の中にある一週間のリズム(ペース)を維持するためにも、休日にテイクアウトしたコーヒーを片手に公園で本を読んだりと、意識的に外に出たりしていた。

ただ珈琲店で席は誰も座っていないのにカウンターでテイクアウトをするという行為の居心地の悪さはあって、非日常感は常に感じていたように思う。

6月に入り、多くの珈琲店がテイクアウト営業から店舗営業へと切り替え始め、久しぶりに席に座ってゆっくりとコーヒーを飲むと、場所の質感や空気感、家具やカップの手触り、温度、匂いなど、あらゆるものから幸せを感じる。この店のコーヒーやお菓子はこの場所でいただくのが一番いいと。

テイクアウト営業では、その良さが半減してしまう。居心地の悪さを感じていたのはこの部分のように思う。紙コップで受け取って場所を移動して飲んでも、移動した場所の良さは感じるけれど、やはり店で飲んだときの満足感には至らない。

そのお店のコーヒーはそのお店で飲むのがやはり美味しく感じるし、満足感も高い。コーヒーの味と場所が一番いい状態で結びついているよう。片方だけが高くても低くても「何か違う」と違和感を感じてしまうんだと思う。

店を閉めていた岐阜の古書店である徒然舎さんへ数ヶ月ぶりに足を運んだら、レジまわりが新型コロナ対応としてボードで仕切られていたけれど、以前と変わらない徒然舎さんの優しくて柔らかい空気がそこにあった。岐阜の街中も歩いている人が増え、立ち寄った軽食スワンさんも開店からお客さんが入っていた。

新型コロナウィルスの影響が大きくなる前の状態に戻っているようで、なんとなく以前とは少し違う雰囲気を感じてしまうのは、街中でも店の中でも、それぞれ人と人が意識的に距離を取っているからだろうか。何となくそれぞれが慣れない行動に辿々しさを感じながら動きつつも、新しい方向性を探っているような気もした。

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