商店街の小さな事務所

古池弘幸建築設計事務所として現在の場所に事務所を構える前に、物件を探している途中に出会ったのが商店街の中にある8坪程度の小さな空間でした。商店街は自分が小さな時から行き来した地元の商店街であり、20年ほど前に比べればシャッターが降りている店が増え、一部の店は取り壊され住宅やアパートが建ち、商店街が崩れて行く途中とも言える場所です。

商店街に普通の設計事務所が入っても面白みは少なく、事務所のあり方として「居場所としての事務所」とはならないものか、「まちのたまり場的な要素」とはなり得ないかと考えました。

商店街の小さな事務所04

居場所としての事務所

名古屋市のベッドタウンである商店街があるこの町は多くの人が町外へと働きに出ている。平日は朝から駅へ歩く人、国道へ向かう車をよく見かけ、通勤のラッシュが落ち着き昼に近づけば、子育てを終えた方や会社を退職した方などが多く出歩き、町は高齢化します。週末の休日になると多くの家族が複合施設へ買い物へ行き、駐車できない車が道路に列をつくる光景は誰もが見慣れたものです。この1週間が繰り返される。

子どもは大学まで行き、就職先は誰もが名前を知っている大手企業、地元で名前が知れ渡っている企業に入社することが良いことであるという雰囲気は根強い。

町には活気が無いわけではなく、寂れている雰囲気もありませんが、個性がありセンス高く誰もがあこがれるような店は少なく、建物はボロボロで「どうやって商売をしているのだろう?」と不思議に思うような店も少ない。また、過去にどんな人生を歩んできたのか分からないような雰囲気を放つおじいさんやおばあさん、昼間から酒を飲みやつれているおじさんもいません。子どもが「この人には近づいてはいけない」、「将来あんな風になりたくない」と思うような反面教師となる大人も見かけません。

とてもクリーンで安全な町ではあるけれど、余白がない。

多くの人にとって暮らしやすい町ですが、レールから外れた人にとって、余白がカットされた町に平穏に暮らし、何となく整備された道を歩み続けることは苦しいと考える。

事務所が家庭や学校、職場などとは違う居場所として、第三者的な役割ができないかと思う。

まちのたまり場的な要素として

生活する上で大変なことはなく、スーパーやコンビニ、ホームセンターなど必要なものはすぐに揃う環境は、この町に暮らしていく上の良い点とも言える。しかし、一転して自分から何かを始めたり、伝えたり、発表したりする場所は公共以外に多くはない。

この空間を事務所以外の用途としても使用できるようにしたら面白いと考える。

ギャラリーのスペースがあれば、普段趣味として製作しているものを発表する場所、現在は見習いとして仕事をしているが今の実力を知るべく将来に向けて作品を発表したい、赤ちゃんが初めて描いた絵と題して親バカグループ展示なども笑いも含めて面白いかも知れない。普段はスポットライトを浴びることがない作品を表に出す空間として使用できる。

また、実験販売のスペースとしてであれば、現在は会社員であり、コツコツと自宅で製作している作品が世の中に受け入れられるのか、興味を持ってくれる人はいるのか、商品として見てくれる人はいるのかなどを試す空間として使用できる。

イベントや祭りのようなハレの日であれば、場所を開放し休憩スペースとして利用するとともにギャラリーや実験販売を利用して評判がよければ、起業や転職、新たなる才能発掘などにつながるかもしれない。

その他にも、インターネット環境を整えておくことで、コワーキングスペースとしても活用することができ、スマホの充電場所、待ち合わせ場所、休憩場所としての利用も考えられる。

商店街の小さな事務所01

商店街の小さな事務所02

 商店街の小さな事務所03

「オープンな事務所」と「少し閉じた事務所」

オープンな事務所であれば誰もが入りやすくウェルカムな環境としたい。入口は全て透明なガラスの入った建具で仕切り、中からも外からもそれぞれの環境が分かるよう状況をつくる。バックヤードを除く部分はワンフロアとして風通しの良いつながりを持つ事務所のイメージとする。

土間スペースにギャラリー、板間スペースに仕事や打ち合わせ、雑談や休憩などが行える机とを分け、高さを変えることでワンフロアながらも領域を分け干渉しないようにする。また、壁を少なくし、床や天井などの改修箇所を抑えることで比較的低額で改修工事が行える。

少し閉じた事務所はオープンな事務所に比べ、外からの視線を感じにくく落ち着いた空間であると共に、事務所としてのセキュリティを高めることができる。

設計事務所としての活動を犠牲にすることなく、補助金や助成金という枠組みに頼らず、少しだけ事務所空間を町に開くこと。

当事務所にとって今回は縁が無かったけれど、面白い活動が行える空間であると考えた。

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