太閤通の休憩小屋

ある日、事務所に1枚の往復はがきが届いたところから全てが始まった。そこには2018年に名古屋の円頓寺商店街で行われた古本市「本のさんぽみち」に出店していたときにフリーペーパーとして置いてあった「ROOF」を見たということ、そして一度お会いしたいという事だった。

2019年3月。打ち合わせ場所は知ってくださったきっかけとなった円頓寺商店街のカフェなごのや(NAGONOYA)にて。そこで打ち明けられたことは、今ある木造の建物を取り壊して雑木林に囲まれたような小さな小屋(スモールハウス)を作りたいということ。元々小さな空間が好きな自分としては、お話を伺うにつれてワクワクドキドキしてくる自分がいる。1時間ぐらいの打ち合わせの後、イベントで多くの人で賑やかな商店街を後にした。

1週間後。現在の庭を定期的に管理している庭師さんも含めて話し合いをすることに。お施主さんから事前に聞いていた庭師さんの印象は、自分と年齢があまり変わらないことと、造園の仕事で海外にも行くということだ。そこに軽トラックのブブンという音。車から下りてきたのは、眼鏡をかけた作業着姿の人。気さくでテンポ良く場を和ませてくれる雰囲気は、緊張していた自分を和ませてくれた。
そこから実際に今ある樹木や石など、何を残してどこへ配置するのか、ざっくりと決め始めると目と言葉に鋭さが加わる。雰囲気も場の空気感も変える職人力に、この人と仕事をしてみたいと思ったことを覚えている。

5月の休日。考えた2つの案を持ってお施主さんの元へ伺った。建築設計を生業にする人間にとって、おそらく最もドキドキと緊張が入り交じるタイミング。プランを見た時のお施主さんの顔が明るくなるのか、曇るのか。第1印象は一瞬で決まってしまう。と言いつつ、見逃してしまったけれど、その後は声のトーンが上がり言葉の数も増えて、実際の言葉もいい反応をもらい一安心。そこから、プランの修正や予算調整、契約などを経て11月に地鎮祭を迎えることができた。

地鎮祭。工事の安全や住む人の繁栄を祈る行事と同時に、これから実際に工事に入る気持ちの切り替えとしても大切な時間。お施主さんはワクワクドキドキをより強め、設計者はプロジェクトの主体を施工者にバトンタッチし、施工者は工事に向けて気持ちを引き締める。それぞれの思いが交錯する時間が何とも言えない時間となる。

施工は自分の事務所の材料を揃えてくれた会社にお願いする運びとなった。お施主さんの「慣れたところの方がいいよね」という判断と、小さい建物で工事スピードが求められることもあり、機動力のあるところに工事をお願いしたかったところも大きい。

2019年12月に着工し、2020年1月に建前、3月に完了検査を終えて、4月に引き渡しとなった。

小さな小屋に

床面積15㎡ほどの小さな小屋。畳にすると9〜10畳ほどの大きさの中に部屋と流し、トイレや浴室などのスペースを含む。少し一人の時間を楽しみたいときも、汚れた体を洗いたいときも、ほっと落ち着ける休憩小屋にしたかった。

床は無垢板の赤松材。壁は合板。天井も構造材となる合板も梁と一緒に表しとなる。装飾はせず低予算でシンプルに。素足や素肌で触っても心地よく、まだ白い床も壁も、時間とともに日焼けし色が濃くなり時間の経過を楽しめる素材。

照明器具は全てお施主さんが持ってみえたものの中で、小屋の雰囲気に合うものを選ばせていただいた。中央のペンダントライトは元は白かったけれど「ここが黒かったら・・・」とお話をしたら、黒く塗っていただけた照明器具。(感謝)

壁には奥行の短い棚を1つ。電話で必要なペンやメモ用紙を置いたり、鍵を置いておくための棚。建具は価格と気密性からアルミサッシ。雰囲気に合わせて色はブラック。

流しはカウンターと人が立って作業する場所。それだけ。カウンターは価格と強度から集成材を採用し、小さなシンクに1口のガスコンロ。お茶を入れるためにお湯を沸かしたり、使ったコップをサッと洗ったり。

壁と天井は木毛セメント板を張る仕上げ。ガスコンロで火を使用する室ということもあり、火に対して断熱性を持ち、火災時に有毒なガスを発生させない材料を採用した。荒々しくも平面的なボードは小屋の雰囲気にも合っていると考えています。

流しなどの水回りの上にあたる部分は余剰空間。

お施主さんが昔住まわれていた場所で使われていた杉の階段。階段は次の住まいのロフトへ上がる階段で使用され、そして今回も小屋の中に設置することになりました。階段を両側から杉の無垢板で挟み、踏み板が足りない部分は補いながら、今回も階段としての役目を、そして、心のよりどころとしての役目も果たしてくれる。

手摺も杉材。階段に合わせて無骨で飾らず、主張しないシンプルなものに。

今後、庭が徐々に作られ、小屋に人の動きが出始めると、小屋に人の手の跡や傷がつき、匂いも変わり、空気が場所に馴染んでいく。お施主さんの色に完全に染まっていき、小屋が生き生きと息をしてくると思う。

それが自分の願いでもあり、お施主さんはそうしてくれると思ってもいます。