本を読むのが好きだったり、本の手触りや独特の匂い、本を読んでいる時間が好きだったり。その結果、家の書棚には大量の本が並んでいるという方も少なくないのかなと思う。書棚に並んでいる本を自分だけが読むのもいいのだけれど、本をきっかけに会話を楽しんだり、人と繋がったりするのもいいなと思い、長期滞在ができる図書室のある住宅を考えてみることにした。
個人の家に長期滞在をする。理解しにくい言葉の表現だけれどホームステイに置き換えると分かりやすい。ホームステイは海外の留学生が一般家庭に寄宿して、その国の生活を体験することだけれど、この場合は図書室のある住宅に寄宿をして1日中好きな時間に他人が集めた本を読み楽しむというものだ。
家主と直接関係のない人と繋がるのではなく、昔からの知り合い、最近ネット上で知り合った人など、家主を中心とした人が長期滞在する場所をイメージしている。日中に読んだ本を夕食を食べながら家主とお喋りを楽しんでもいい、夜中にお酒を飲みながら語らうのもいいかもしれない。もちろん、人によって家主と取る距離はさまざまだ。人と本との距離が人それぞれのように。
道路からアプローチを抜けて玄関の扉を開けると正面に見えるのが図書室となる。図書室は7畳ほどの空間だけれど1階と2階が吹き抜けていて大量の書籍を収められるようになっている。玄関から南側には家主家族や滞在者が集まるリビングやダイニング、キッチンがあり、北側には家主のプライベート空間が広がる。
玄関ホールにある階段を使い2階に上がり、南側に長期滞在できるゲストルームがある。ゲストルームは15畳ほどの空間があり、ベッドや机の他にもミニキッチンやクローゼットに加え、トイレや洗面、シャワールームや洗濯機などの水回りも完備されている。トランク1つ持ってくるだけで生活ができるようになっている。2階には家主の書斎や家主家族の子どもたちの部屋もある。
長期滞在する時間はどのくらいになるだろう。1週間や1ヶ月、半年や1年。ふらっと大学生時代の一時期を過ごしてみたり、浪人生時代を過ごしたり、転職の合間に息抜きも合わせて過ごしてみたり、立ち上げた会社が軌道に乗るまでの時間を過ごしてみたり。人生の中にある節目。少しだけ本を頼って、本にもたれかかって、本を信頼して過ごしてみるのもいいのではと思っている。
家主の集めた本の世界観に浸かる楽しさ、新鮮さ、考え方や趣味嗜好、それらをじっくりと時間をかけて体全体で感じる。
本棚にはその人の考え方や生き方が現れていると思う。人生そのものと言ってもいいぐらい。何かを調べることならインターネットで簡単にできてしまう。それでも本の一冊一冊が伝えてくる雰囲気や空気感は、ディスプレイに映し出された画一的な文字では表現しきれない、そこにしかないものだ。
破れかかった帯、裏表紙に付いた擦り傷、日に焼けた紙、文章の横に書き込まれた赤文字。家主の人柄からは想像できない本に染みついたタバコの匂い。家主が昔吸っていたタバコの匂いなのか、家主自身が恩師から譲り受けた本なのか。時間と歴史が今この本を手に取っている人に五感で訴えてくる。それも本のいいところだと思う。
何かについて考えたいとき、そっと本棚から本を手に取る。誰よりも1秒でも早く本を読まないといけない理由はどこにもない。自分が持つスピードで本を開き、文章に目をおろす。そんな時間を感じられる図書室があってもいいのかなと思う。