[draft#3]離れの図書館を持つ住宅

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離れの図書館を持つ住宅

空からゴォーという音を立てて降り続ける雨が止まず、樋がパシャパシャと一生懸命に水を排水する音が少しだけ気にしながらも、歩いて数十歩のところにある駐車場まで傘を差して向かう。窒息しそうなほどの雨量で朝からテンションが下がるというけれど、個人的には雨は嫌いじゃない。

ピシャピシャと音をたてながら歩く姿を家の中から見ている人がひとり。コーヒーを片手に机の上に置いてある本を静かに手に取って読み始める。これから1、2時間は一歩も動くことなく本の世界観に浸ると決め込んでいるらしい。

どこにでもある住宅地の一角に2人が暮らす家がある。2人の共通項は「本を読むことが好きなこと」、「人とのコミュニケーションが少し苦手」なことぐらい。敷地には2人が暮らすには十分な大きさの家と、仕事や趣味で集めた数千冊の本を収蔵できる書庫の2棟が建っている。

この家の特徴は塀かもしれない。話をすることは苦手でも嫌いでもないが、初めて会う人との話には視線が定まらないことが多い。少しだけ距離を取ってマイペースに会話を楽しみたいと思う。その中で一線を越えてしまえば、とてもフレンドリーな人間関係を築くことができる。そんな家主と同じように、この家も外から中が見られない塀で外部から来る人との距離を取る。そして、一線を越えて中に入れば、とてもオープンな庭と家が出迎えてくれる。

ただ唯一例外があるとすれば本。本が好きな人であれば一瞬でつながり合える。

道路から直接アクセスできる書庫は図書館としても開放される。家主が休みの日曜日と水曜日がオープンの日。店番ならぬ図書館番がひとりの時もあれば、ふたりの時もある。毎回たくさんの人が訪れることはないけれど、最近はもっぱらどこで聞きつけたかわからない近所のおじいちゃんが自転車に乗ってやってくることと、論文を書く大学生が相談もかねて通ってくるぐらいである。誰も来ない日だってもちろんある。きっと今後もそんな感じだろうけれど、広める気もない。

微かにジャズが流れる空間で名前も年齢も住まいも知らない人と同じ空間で本を読み、休憩をかねてコーヒーを飲みながら喋るひとときを楽しんでいる。意見が食い違う面白さにもワクワクしながら、自分の人生を形成している本を他人に読んでもらうのはやめられそうもない。そろそろ家の中にある特別な本棚に案内しようかなと思ってもいる。

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