[draft#2]裏路地に建つ職人の仕事場と住まい

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裏路地に建つ職人の仕事場と住まい

新聞配達員さんが原付で家々をまわっている光景と共に、近くにある駅へ向かう会社員の姿がパラパラと見え始める時間帯。どこにでもある商店街から一歩中に入った道沿いに家がある。“ドンドンドンドン”。工具を使って何か作っている音が道路まで少しだけ聞こえる。夜中から朝方にかけて仕事をしている職人曰く、夜の方が電話が鳴ることもなく、街もザワザワしていないことから仕事が捗るようだ。

外に出てこの家を見てみよう。建ち並ぶ家々の中で敷地も建物もこの家はかなり小さく、バレーボールコート半面分の敷地の上に1階と2階合わせて畳37枚分の家が建つ。1階を主に仕事場として使い、2階が職人の住まいとなる。数字から狭いという印象を受けてしまうが、職人が働きながら住まう場所として、手の届くところに何でもある大きさと言えるのかもしれない。

少し仮眠を取って朝10時。睡眠は1日に数回に分けて2、3時間ずつ。何かに縛られることなくマイペースに仕事をするのは、自由に働く職人の特権かもしれない。不定休のお店は、外からガラス越しに主人が見えれば開いていて、いなければ閉店していることが暗黙の了解で、マイペースで仕事をする職人の事を知っている人が希に顔を出す程度。人が訪れた時は作業台越しに会話を楽しみ、作業台背面にある小さな調理スペースを利用して作られたこだわりのコーヒーが場を和ませる。

休憩をかねて週末のことを考える。日常的にお世辞にも賑わっているとは言えない商店街が、月に1回イベントを開催し、昼間から夜にかけて多くの人が集まる。前回は休憩所として場所を貸したけれど、今回は職人としてワークショップを行うつもりだ。素材や物に直接触れてもらい、体験してもらえることは、職人としてやはり嬉しい。短時間で作ることができるものはなんだろうか・・・。

そんな事を考えていたら知らないうちに午後3時になっていた。ふと顔を上げるとランドセルを背負った小学生が中を覗いていたりする。「ちょっと見ていくか?」と声をかければ、学校帰りだから無理と走って逃げる。このやり取りは過去何回繰り返しただろう。ちょっと笑ってしまう出来事だけれど、仕事場を見た経験が今後の彼の人生にいい影響を与えられていたら、それはそれで嬉しく思う。

一休みをして午後5時。少し早いけれど2階へ上がり夕食を食べようと思う。階段を上がり扉を開けて電気をつければ、キッチン、リビングダイニング、寝室と全てが見渡せてしまうワンルーム構成の室内がそこにある。コンパクトなキッチンでササッと料理を作り、テレビで1日のニュースを確認しながら夕御飯を食べることがいつもの日課となっている。

広く計画された2階の窓から見える風景も好きで、道路沿いにまばらに点在する街灯に虫が集まり、人を避けるように野良猫がどこかの家におっそ分けをもらいに走る光景を目にすると、時がゆっくり流れている感覚を与えてくれる。そんな2階の窓からこぼれ落ちる光が駅から帰宅する人々の足元を照らして、暗い夜道を少しだけ安全な道に変えたりもする。

仕事の前に風呂に入ってリラックスすると同時に、意識を仕事に切り替える。小さなトップライトから見える夜空をボーと眺めながら、今日行う仕事の内容と工程をシミュレーションをしてゆく。

人に自慢できるような贅沢な生活ではなく、誰もが羨ましがるような暮らし方でもないかもしれない。ただ、身の丈にあった家と仕事場で頑固でマイペースだけれど、毎日を自分なりに生きていく。そんな感覚。

深夜。仕事場に戻ってきて「さて、つくろうかなと。」と椅子に腰を下ろして今日の仕事がまた始まる。

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